2017年9月11日月曜日

貧しき武家

 
 角館に現存する主要な武家屋敷はどういう訳かすべて城下町メインストリートの東側に並んでいます。西側は道沿いに塀だけは修景されているものの、その内側は空き地であったり、現代的な公共施設が建っていたり、見るべき保存建物は残っていません。なぜなのでしょう?
  その理由はどうやら町の区割りにあるようです。資料によれば東側は家老級の武士に、西側は足軽の住居に当てられていました。つまり西側は「貧しき武家」のゾーンだったのです。おそらく彼らには家屋や土地を維持するだけの意思も財力も無く、明治以降の時代の変遷にその運命をゆだねてしまったのでしょう。
 でも実はそのゾーンに一軒だけ残っている家がこの「松本家」です。当然立派な塀や門は無く、正面にあるべき来客用の入口もありません。屋根は石を置いて葺き材を押さえる民家方式。家屋の回りは庭園というより菜園スペース。空を覆うほどの大樹など植えられるはずも無く、屋根の上には夏の入道雲が広がっています。
  角館最後の一枚は身分差の厳格な武家社会のスケッチでもあります。